【先行研究紹介】地域おこし協力隊を活用した公営塾の分析(岡山県和気町の事例)
今回の先行研究紹介では、岡山県和気町の事例を取り上げた佐久間邦友氏(日本大学)の論文を紹介します。「和気町公営塾」では、地域おこし協力隊が指導や運営で活躍しており、英語に特化したユニークな公営塾です。
【論文】佐久間邦友(2023)「公営塾の持続可能な運営方法の検討―岡山県和気町の「和気町公営塾」を手がかりに―」『学習社会研究』第5号、pp.218-235。
はじめに
・本研究では、公営塾の持続可能な運営方法と地域学校協働活動との連携を探る。そのために、地域おこし協力隊制度を活用して地方創生に取り組む岡山県和気町の「和気町公営塾」の事例を取り上げた。
・近年、地方創生をきっかけに、地域の教育事業および高等学校の魅力化の一環として公営塾を設置する事例が見られる。公営塾は、主に小・中学校の児童生徒を対象とする公営塾と、高等学校の生徒を対象とする公営塾に分けられる。
・2017年度に実施された全国学力・学習状況調査によれば、通塾率は小学6年生で46.3%、中学3年生で61.2%であったが、へき地に住む子供たちの場合、それぞれ27.0%、32.3%と少ない。
・公営塾は、都市と地方間の教育機会の是正を目的としているものが見受けられ、へき地を含む町村部に設置される傾向がある。
岡山県の公営塾の状況
・岡山県では、和気町を含めて5つの自治体で公営塾を設置している(表)。
・義務教育段階の子供たちを対象にしており、指導者は、民間企業からの講師派遣の場合もあるが、多くは地域おこし協力隊や大学生である。
英語教育に力を入れる和気町
・和気町は、岡山県南東部に位置する人口13,245人(2022年6月22日現在)の自治体である。2006年3月1日に、旧和気町と旧佐伯町が合併して現在の形になった。
・町内には、3つの幼保一体型施設(和気、本荘、佐伯)、3つの小学校(和気、本荘、佐伯)と2つの中学校(和気、佐伯)が設置されている。
・地方創生戦略の一環として、よりグローバルな人材を地域で育てるため、英語教育に特化した教育事業が推進されている。具体的には、2016年12月、町内の全ての小・中学校を「英語特区」とし、4技能をバランスよく身に着けるための英語教育を実施している。
「和気町公営塾」開設のきっかけと特徴
・「和気町公営塾」の提案者は、2015年当時の地域おこし協力隊だった。当時の地域おこし協力隊員に、帰国子女や英語に長けている人材がいた。
・折しも、町は地方創生の総合戦略を立案するタイミングであった。そこで、移住定住促進のためのブランディング施策の一つとして「英語教育」に注目し、その一環として「和気町公営塾」が設置された。
・「和気町公営塾」は、町民の小学5年生から中学3年生までの子供たちを対象に開催している。
・授業料は無料であるが、教材費などは自費である。
・会場は、町内にあるENTER WAKE(和気教室)と学び館「サエスタ」(佐伯教室)である。
・講師は、地域おこし協力隊員、町内在住のALT、和気町出身の大学生、町外の県内大学生である。
・指導教科は、主に英語(「英語検定」対策講座、および英会話)である。自習サポートにおいては全教科に対応している。
・これまで先行研究で取り上げられた公営塾では、「学校教育の補完」や「高校受験」などを見据えた5教科のカリキュラムが編成されていることが多い。そのため、英語に特化した「和気町公営塾」の事例はユニークである。
地域おこし協力隊の支援
・「和気町公営塾」の講師は、地域おこし協力隊員、町内在住のALTと大学生らのボランティアである。
・ボランティアには1時間当たり1,000円の謝金が支払われている。主に自習サポートや英会話レッスンのサポートを担当している。
・地域おこし協力隊員は、塾の運営と講師の仕事をしている。日々の運営は、マネージャー役の地域おこし協力隊員が担い、他のメンバーとの情報共有体制がつくられている。
・教育委員会事務局は、予算確保、毎月の報告の受領、運営に関わる相談・課題の整理が主であり、日々の現場運営には関与していない。ただし、公営塾を担当する地域おこし協力隊員の座席が社会教育課に置かれているため、日常的な業務の合間に相談や情報共有できる体制が構築されている。
課題は運営を担う人材の確保
・「和気町公営塾」の課題は「運営を担う人材の確保」である。
・現在の現場運営は、地域おこし協力隊が担っており、協力隊の任期満了のタイミングで後任が来ないなどの問題が定期的に生じている。
・地域おこし協力隊員は、応募者が和気町教育委員会事務局社会教育課に履歴書を提出し、約1カ月間、「おためし」の地域おこし協力隊として活動し、その後、正式に採用される。採用にあたっては、特に「双方のマッチングをしてから最終的な面接に移る」ことを重視している。
・応募者の多くは、「教える」ことを希望して応募してくるため、公営塾のマネジメントやコーディネートに携わるという認識が応募時点ではあまりないことが想定される。そのため、公営塾運営には、「教えることに重きを置いた講師」と「講師たちをマネジメントする人材」の2者が必要であるといえる。
・今後の発展には、公営塾をマネジメントおよびコーディネートする人をどう採用・育成していくかが肝要であり、これは事業の継続につながる。
※詳細は論文をご覧ください。佐久間邦友(2023)「公営塾の持続可能な運営方法の検討―岡山県和気町の「和気町公営塾」を手がかりに―」『学習社会研究』第5号、pp.218-235。