【先行研究紹介】公設塾による地域課題解決学習の実践(長野県白馬村の事例)
先行研究紹介シリーズ、今回は長野県白馬村・小谷村の「しろうま學舎」の実践を事例に、地域課題の解決学習において、公営塾(本論文では公設塾)がどのような役割を果たしうるか、その可能性を探った高嶋真之氏(藤女子大学)の論文を紹介する。
【論文】高嶋真之(2021)「公設型学習塾における地域課題解決学習の実践―「高校生と一緒に楽しい白馬村を考える会」を手掛かりに」みんきょう(北海道民間教育研究団体連絡協議会紀要)No.136, 5-9頁。
Ⅰ 背景と課題
・従来学習塾では、主に学習者個人の私的な利益を追求した教育活動が実施されてきた。
・しかし、近年、自治体が独自に設置した公的な学習塾である「公設型学習塾(以下、公設塾)」では、「公設」であるがゆえに、個人的・私的な視点だけに留まらず公共的な視点を意識した教育活動も実施されている。
・本論文では、公設塾で実施された地域課題解決学習の実践を検討し、公設塾のもつ可能性について検討する。
・具体的には、長野県白馬村・小谷村の公設塾である「しろうま學舎」で2017年度に実施された「高校生と一緒に楽しい白馬村を考える会(「楽しい白馬村」実践)」を事例とする。
Ⅱ しろうま學舎について
・長野県白馬高校は白馬村に唯一ある県立高校である。2014年に長野県教育委員会が設定する再編規準ラインを下回ったことを受けて「白馬高校魅力化プロジェクト」が開始された。その一環として白馬村・小谷村の2村が2015年に設置した公設塾が「しろうま學舎」である。
・地域課題解決学習は2年生の「輝☆ラボ(てるらぼ)」で実施された。「輝☆ラボ」は、「変化の激しい社会で答えのない問題に直面したとき、柔軟に、自由に、自分の道を進むための力を養うこと」という全体目的の下、2年生のときに「地域を知る、考える力・課題解決力を身に付ける」ことを目的として「地域課題発見解決ワーク」を行っている。
・2017年度は「住んでいて楽しい白馬村にするにはどうしたらよいか」が探究テーマだった。
Ⅲ 「楽しい白馬村」実践について
(1)概要
・2日間(2017年8月21日~22日)の短期集中型ワークショップで、高校生、大学生・大学院生、民間企業の社員の合計16人が参加した。2日間の主な取り組みは下の表の通りである。
・実践の目的として、①考えを共有しながら深く考える楽しさを知ること、②物事を構造化する方法を学ぶこと、の2点が設定された。
・実践の特徴として、2日間を通して様々な場で様々な人々が対話を行っていることが挙げられるため、この対話に着目して分析を進めた。
(2)分析
①グループ内での対話
・生徒たちは、話題提供のときに「重要だ」と思ったことを書いた付箋の内容に十分に納得している様子ではなく、徐々に、「「大人の楽しい」と「高校生の楽しい」は違う」という気付きを得た。ここがポスター作成のスタート地点になり、「白馬高生の場所と思える場所」を具体化していった。
・グループで対話を進めていく中で、大人側は生徒から学ぼうとする姿勢を持ち続けていた。また、大人側は生徒が白馬村で生活する中で培ってきた感性を尊重・肯定する姿勢も重視していた。そのため、大人と生徒は初対面であったにもかかわらず、生徒の意見をより多く反映させたポスターを作成することができた。
②生徒と地域住民の対話
・2日目に発表会を行った。事前に開催周知をしていたため、当日は副村長や校長を含む約60人の地域住民が集った。地域住民は、生徒たちによるプレゼンを聞き、プレゼンを踏まえた議論に混ざり、ポスターや発表に対する感想を付箋に書いて貼って、会場を後にした。
・発表会は、地域住民にとって高校生が白馬村で生活する中で感じていることや考えていることを学ぶ場になっていた。その上で、生徒の思考の成果に対して応答する機会が直接的・間接的に用意されており、生徒と地域住民の対話につながっていた。
(3)成果
・生徒は、「高校生の話を聞いてくれる大人が地域にいることがわかった」「白馬村に住む人がちゃんと高校生の話を聞く機会がなかったんだなと思った」という気付きを得た。今後、生徒と地域住民のより良い関係構築や交流促進にとって大きな意義をもつと考えられる。
・校長は、高校の総合的な探究の時間で取り組んでいる地域課題解決学習でも、生徒がアイディアを出したり提案を行ったりすることで、他の生徒にとっても刺激となり、公設塾と高校で好循環が生まれることを期待していると語った。
Ⅳ 地域課題解決学習に見る公設型学習塾の可能性
・公設塾を含む学習塾の特徴の一つは、実践の自由度と柔軟性の高さである。公設塾の可能性を発揮する上で重要な点は、この特徴を実践の中でいかに活かしていくかにある。
・「楽しい白馬村」実践においては、①生徒の声を起点としながら生徒と塾講師(大人)が協同で実践を組織していたこと、②地域社会という視点を導入しながら公設塾の公共的な意義を高めていたこと、の2点が注目に値する。
・公設塾は、学校ではなく学習塾であり、しかも、単なる学習塾ではなく「公設」の学習塾である。このことの意味をどのように考えるかについて、公設塾に関わる人々が共同で探究していくという新たな課題が立ち現れている。引き続き、公設塾の実践に関する調査を進めながら議論を展開していきたい。
※詳細は論文をご覧ください。【論文】高嶋真之(2021)「公設型学習塾における地域課題解決学習の実践―「高校生と一緒に楽しい白馬村を考える会」を手掛かりに」みんきょう(北海道民間教育研究団体連絡協議会紀要)No.136, 5-9頁。