【先行研究紹介】高校生を対象とした公設型学習塾の分析(北海道足寄町の事例)

先行研究紹介のコーナーでは、全国の公営塾に関する調査研究を紹介します。今回は、北海道足寄町(あしょろちょう)の公営塾の事例研究をした高嶋真之氏(藤女子大学)の論文の概要を紹介します。

【論文】高嶋真之(2021)「過疎地域における公設型学習塾の設置と教育機会の保障―北海道足寄町「足寄町学習塾」を事例として―」『教育学の研究と実践』第16号、pp.25-35。

はじめに

・今日、全国各地で地方公立高校の存続と魅力化に向けた取り組みが進んでいる。その一環として、自治体が学習塾を設置し、学校外の教育環境を整備しようとする政策や実践が全国の過疎地域にある。本論文では、「公設型学習塾(以下、公設塾)」と表す。

・公設塾設置の背景には、従来の学校を中心とする教育機会の保障とは別に、過疎地域に固有の状況がある。また、学校とは異なる独自の役割を果たすことが期待されている。本論文では、公設塾の実態の解明を通して、過疎地域における教育機会の保障のあり方について検討する。

1. 課題設定

・本論文では次の3つを課題に設定する。

  1. 北海道における公設塾の設置動向を明らかにする。
  2. 北海道足寄町(あしょろちょう)の「足寄町学習塾」の事例分析によって公設塾の実態を解明する。
  3. 公設塾の意義と課題を論じて過疎地域の教育機会の保障のあり方について検討する。

2. 北海道における公設塾の設置動向

・調査方法:「北海道新聞記事データベース」にて記事検索を行った。

・調査結果:12の自治体の、対象に高校生を含む公設塾に関する新聞記事を得た。12の自治体は、公設塾設置順に、足寄町、上士幌町、津別町、平取町、夕張市、利尻町、白糠町、厚沢部町、寿都町、弟子屈町、天塩町、大空町である。

・公設塾の設置動向の分析:

  1. 「足寄町学習塾」が2015年10月に開塾しており、2010年代後半に他自治体でも同様の動きが見られるようになった。自治体の特徴として、「過疎地域」の指定があり、高校は1校のみ、1学年あたり1~2学級であることが挙げられる。
  2. 公設塾の設置に民間教育企業が大きく関わっている。北海道では、(株)Birth47、(株)Prima Pinguinoが高いシェアを占めている。
  3. 公設塾の設置目的はおよそ共通している一方で、公設塾の対象生徒や教育活動は異なり、自治体の独自性が現れている。

3. 公設塾の実態に関する事例分析

・北海道における最初の公設塾である「足寄町学習塾」を事例とする。同塾は2015年10月に足寄町が設置し、管理・運営を(株)Birth47に委託している公設民営型学習塾である。

・設置に至る背景要因:

  1. 道立高校に対して市町村が関与できる余地は限られており、公設塾を媒介として道立高校を間接的に補助・支援することにつながっている。
  2. 自治体による経済的支援だけでは地元高校への進学が選択されないため、学校外の教育環境の充実へと支援が広がった。
  3. ソーシャルビジネスとして民間教育企業が過疎地域で事業を展開し始めており、公設塾がその一つの形態になっている。

・特質:

  1. 個人的な需要だけではなく社会的な必要にも基づいて成立している。この成立根拠に由来する公共的性格が民間の学習塾とは異なる特質を生み出す。
  2. 法制度面では条例による設置根拠をもつ点、財政面では公費が投入され無料で通塾できる点が民間の学習塾と異なる。この意味で制度的に公的な教育機関であると言える。
  3. 教育活動では民間の学習塾とほとんど違いはないが、学校との連携・協働を進めながら教育活動を行っている点や、地域活動にも積極的に参加している点が、民間の学習塾と異なる。

・設置前/設置後の変化:

  1. 41人以上の入学者数を確保して普通科2間口(1学年2学級)を維持しており、足寄町の地元進学率(足寄中学校の卒業生のうち足寄高校に入学した生徒の割合)は70%を超える値になっている。
  2. 学校外の学習時間が増加しており、「授業→部活動→塾」のスタイルが浸透しつつある。
  3. 開塾当時と比べて「応援してくれる人が増えた」という実感が生まれている。なお、足寄町学習塾では、様々な効果を、あくまでも「高校と塾の相乗効果によるもの」と認識している。また、足寄町は公設塾の設置以外にも様々な支援策を講じている。

4. 過疎地域における公設型学習塾の意義と課題

・公設塾の意義:過疎地域において公設塾を設置した際の最大の意義は、地域の教育環境の充実にある。これにより、結果として教育機会の保障や地域の持続可能性の向上にもつながる。したがって、過疎地域の今日的な課題や困難を解決に向かわせる可能性が高い政策および実践であると言える。

・公設塾の課題:学校=中核的/学習塾=補助的という関係を踏まえると、政策立案時には、自治体が学校教育を軽視していると捉えられないように、政策上の配慮が求められる。政策実施後には、公設塾が学校教育を軽視していると捉えられないように、実践上の配慮が求められる。こうした配慮は公設塾の特質である公共的性格からも強く要請される。そのため、公設塾のガバナンス体制を構築し、より望ましい教育機会の保障のあり方を、学校内外で共同的に模索していくことが重要となる。

おわりに

・今日の日本の過疎地域の置かれている状況は非常に深刻であり、公設塾は各自治体の必死の努力から生まれている。まずはこの現実を直視し、公設塾をめぐる実態を丹念に検討していくことを通して、そのあり方を議論の俎上に載せることが求められる。

・本論文では、公設塾の設置主体である自治体と、運営主体となっている民間教育企業に焦点を当てながら公設塾を分析してきたため、学校との関係については十分に分析できていない。これらは、ガバナンス体制の構築にも関連する重要な検討課題であるため、稿を改めて検討したい。

※詳細は論文をご覧ください。【論文】高嶋真之(2021)「過疎地域における公設型学習塾の設置と教育機会の保障―北海道足寄町「足寄町学習塾」を事例として―」『教育学の研究と実践』第16号、pp.25-35。